「大事にしたい」
「もし、同い年で出会ったらどんな感じだったのかな、って思うことがあるんです」
伏木蔵はそう言って、雑渡の膝にことりと後頭部を乗せた。
雑渡はそんな伏木蔵をちらりと見下ろしたあと、「藪から棒に、なに?」と問う。
「僕くらいのころ、何がお好きでしたか?」
「んー……、そのころはもう、扱かれていたからね」
「ほぇ〜、山本さんにですか?」
「うーん、そのころは、父かな」
「へえ、お父上……、昆奈門さんに、似てますか?」
「似てるって、言われるねぇ……、この、目が特に」
手に持っていた本をぱたりと閉じて、膝に乗せられている小さな頭を撫でてやると、伏木蔵はそれが心地よかったのか、少しだけ目を細めて、「ふふ」と笑った。
「本はお好きでしたか」
「うん」
「兵法書ですか?」
「そういうのは、もう少し大きくなってからかな」
「じゃあ、漫画とか」
「そうだね……、そういえば、少し前に伏木蔵も読んでたじゃない。歴史の漫画。あれ、おもしろかったね」
「え? はい……、でも、なんで昆奈門さんがそれを知ってるんですか?」
伏木蔵のその問いに、雑渡は何も答えなかった。
その代わりに、焦げ茶色のやわらかい髪の毛を指に絡ませる。
「僕、昆奈門さんのこと、もっと知りたいです」
「うーん……、それはちょっと……、いつか敵になるかもしれないからね」
「ええ? それ、いまさら言いますかぁ?」
そう言って、むくれる。
ふくらんだその頬に思わず触れると、ふてくされたように「やめてください〜」と首を振られて、温もりが遠のいた。
「つれないね」
仲良くなりたい、とか。
好きなものを教えてほしい、とか。
タソガレドキ忍軍の一番上に立つようになって、年齢も重ねて、周りから敬われて、その代わりに、その命の行く末を担う。そんなふうに生きている自分が、まるで友人同士のような、これから恋仲にでもなるような、そんな会話を誰かとすることになるなんて想像もしていなかった。
大事にしたい、と思うけれど、大事にできるかどうかはわからない。
いつか本当に敵同士になって、命を奪うこともあるかもしれない。
村を焼くことだって、家族を殺すことだって、ないとは限らない。
──だから、今だけは、
「……伏木蔵」
「なんですか、」
「じゃあ、思い出話でもしようか」
「え! うれしいです〜」
そんなふうに、
他愛もない話をする瞬間を、
(大事にしたい、のおはなし)
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