ともに生きるということ
瘢痕を指でなぞる。「触ってもいいですか」と問うと、「もう触ってるじゃない」と返しながら雑渡はその指で伏木蔵の頭を撫でた。微睡みつつあったのか、雑渡は、ふわ、と眠たそうに欠伸をする。
「お疲れですか?」
「うーん……、まあね……、」
ここのところ戦は落ち着いているものの、そういうときほど忍び隊の動きが細かったりするものである。物見が増えて、外で一夜を過ごしたり、遠出をすることが多くなる。雑渡も伏木蔵も、この数日十分に眠ることができていなかった。だからこそ熱を放ちたいという欲が生まれて、昨晩からこんな時間までこうして抱き合っていたりするのである。
「疲れてるんなら、僕の相手なんてしなくていいのに……」
「え? 逆だよ」
「……逆?」
「おまえが、私の相手をしてくれているんだろう」
頭を撫でていた雑渡の指が、そのまま首筋に降りる。
さっきまで触れに触れられていた身体は、丁寧に後始末をしたにも関わらずまだその感触を鮮明に残していて、「う」と伏木蔵は小さな声をあげた。すると、雑渡はそれに気づいたらしく、ゆっくりとした仕草で伏木蔵の肌に指を滑らせはじめる。
首筋から、背中へ、
それから、肋骨の浮いた薄い腹にも、その手が這っていく。
「………っ」
それに呼応するように、伏木蔵も触れていた雑渡の古傷を再び撫ぜた。
そうやってお互いの肌に触れていると、腹の奥に残った熱がふわりと浮き上がってくるようで、ああまずい、と伏木蔵は小さくかぶりを振る。
「…………組頭、」
制するように、わざと、そう呼んだ。
冬の日の出は遅い。おそらく朝は近いのだろうが、まだその空は白んでもおらず、鳥の声もまだ聞こえてこない頃合いだった。とはいえ、今から睦み合っていては仕事に支障が出るのは明らかで、もしそうなったら山本や押都に怒られるのは目に見えている。
「もう終わり?」
「だって、絶対に長くなっちゃうじゃないですか……、だから、また、夜に」
「へえ………、付き合ってくれるの?」
そう言った雑渡の視線を捉える。
それから、「いえ」と伏木蔵は首を振って、
「僕に、付き合ってもらうんです」
「……ふふ、」
遠くから鳥の声が聞こえだす。
空が明るくなるまではあとどれくらいだろうか、なんて考えながら、伏木蔵はもう一度雑渡の傷に触れたあと、ゆっくりと目を閉じた。
熱が引くまでは、もう少しこのまま。
そうして、また新しい朝を迎える。
(ともに生きるということ、のおはなし)
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