夜もすがら
細身の身体からのびたすらりとした四肢。
腰に届くほどたっぷりとのびた焦げ茶色の髪の毛。
元から白かったその肌はさらに透明感を増し、寂しげな目もとを際立たせている。
「……良いな」
黄昏甚兵衛がそう呟いたのを、雑渡は聞き逃さなかった。
そして、やはりそうなるか、と妙に納得もしたのであった。
タソガレドキの城主である甚兵衛に長年仕えてきた雑渡昆奈門は、鶴町伏木蔵のその見目が黄昏の目に止まらないはずがない、と薄々気がついてはいた。案の定その夜、雑渡のすぐ後ろに控えていた伏木蔵のことを、甚兵衛は見逃さなかったのである。
口の端を上げて、甚兵衛が笑む。ゆっくりと立ち上がったその男は、雑渡のすぐ横を通り過ぎたかと思うと、伏木蔵の目の前で片膝をついた。
「鶴町伏木蔵」
「は」
「顔を上げよ」
甚兵衛は、手に持っていた扇子で、伏木蔵の顎を持ち上げる。そうして、もう片方の手で伏木蔵の口布をずらすように外した。
伏木蔵の目が甚兵衛の視線を受け止める。
その水分の多い瞳に捉えられ、甚兵衛は、自分の首すじがわずかに粟立ったのを感じた。やはり、好みである。
「昆奈門」
「は」
「一晩、貸せ」
「……は、」
雑渡はわずかに頭を下げながらそう返事をした。そんな雑渡を見下ろして満足そうに笑った甚兵衛は、扇子を懐に仕舞いながら立ち上がる。
伏木蔵は、表情を変えないまま、す、と頭を下げた。
それは、「承知」という合図であった。
果たしてその夜がきた。
おろしたての白い着物を伏木蔵に着せたのは雑渡であった。「妬きますか?」と伏木蔵は問うたが、雑渡はわずかに笑むだけだった。黄昏甚兵衛に忠誠を誓った忍隊組頭は、伏木蔵の腰に細帯を結んだあと、首すじに一度だけ唇を当てる。
(痕をつけるくらいしたらいいのに)
それは言葉にはしなかった。
まだ感触の残っている首すじは熱く、それだけで十分だと思えた。
***
もう丑の刻もすぎたころ、伏木蔵は自分に覆いかぶさっている甚兵衛に抱きついて喘ぎ声を上げながら、ふと視線を上げた。
(いるなぁ……)
こんなどろどろの姿を見られることもそうそうないだろう、と伏木蔵は今の自分の姿を想像する。
それから、あとで何と言われるだろうか、とも続けて想像をしてみたが、あの雑渡の機嫌に自分のこういったことが影響を与えるとは、やはり思えなかった。
からり、と乾いている。
それでいて、沼のようでもある。
そんなひと。
「伏木蔵」
伏木蔵……、
甚兵衛はその名を呼びながら伏木蔵のなかに熱を放った。
案の定、それが最後の精であった。
はあ、と長い息を吐いた甚兵衛の身体を、伏木蔵は強く抱きしめる。
(かわいかったです、殿)
最後にその口を丁寧に、ゆっくりと吸った。
甚兵衛の湿ったその唇は伏木蔵を離すまいと長く触れ続けたが、ほどなく離れ、長い夜は終わりを告げる。
「覗き見なんて趣味が悪いですよぅ」
「途中からだよ、あまりにも長いから心配になった」
「長かったですか? いつもと同じくらいでしょう」
「そうかな」
「……で、どうでした?」
「なにが」
「房中術。久しぶりだったんですよ」
「まあ………、さすが色忍務が得意だっただけあるね」
「それ、褒めてます?」
「褒めてるだろう。あんなによさそうなおまえ、初めて見たしね」
「え〜? 昆奈門さんがそうしてほしいって言うならがんばりますけど」
「へえ」
「でも、昆奈門さんとのときはぁ」
「うん」
「気持ちよくなるっていうより、自分が何を言っているのか、どんな顔をしているのか、わけがわからなくなっちゃうっていうか……」
「……………へえ、」
「だから、あんなふうにできるかどうか」
「伏木蔵、」
「はい?」
「もういい」
「え?」
「こっちへ来なさい」
「え、」
「はやく」
「え……、もしかして今からするんですか? 死んじゃうかも……、とってもスリルぅ〜……」
「伏」
「はあい……」
(夜もすがら、のおはなし)
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