電子の海
びかびかに光る、暗い部屋のなかに、ひとり。
赤く点滅しはじめたRECとそのすぐ横でぽつぽつと増えていく数字をしばらく眺めてから、「こんばんは〜」といつもどおりの挨拶を画面に向かって投げた。
「今日はこの前の続き……。あ、そういえばあのクリアできなかったところ、抜け道があったらしいんだけどみんなわかった? あの毒の沼地のね、横の道すすむとよかったらしい。知ってたんだったら誰か教えてくれてもよくない? いじわる〜」
少しずつコメントの速度があがる。
開かれた画面には、荒くて古めかしいドット絵が広がって、ほどなくしてコンティニューボタンが浮かび上がった。
配信をはじめて数年が経つけれど、これだけ続けられているのは、やっぱりこれが好きだからだろうか。クリアできそうでできない、ぎりぎりで滑り込む、そんなスリル。ゲームは古ければ古いほどいい。そう思ってもいる。
「じゃあ、はじめるね」
そう言ってボタンを押そうとした瞬間、見慣れた名前がそこに映し出されたので、思わず口元が緩む。
「ようこそ、『くせ者』さん」
これから数時間、
夜がふけるまで。
僕と、画面の向こうのそのひととの時間がはじまる。
(電子の海のおはなし)
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