鬼の子は鬼
袷の隙間からその人形が落ちたのはおそらくわざとだったのだと思う。暗闇のせいで何色なのかもわからない装束を身につけた若い忍は、その落ちた人形を拾いながら「んふふ」と笑った。
「失敗、見られちゃいました」
そう言いながら顔を上げたその忍が、あまりにも幼い、まるで少年のような顔つきをしていたので思わず息を呑んだ。おそらく十をすこしこえたくらいだろう、と簡単に推察できるほど、その体つきも声も明らかに少年のそれで、元服を済ませているのかどうかすらも判断がつかない。
──そんな忍が、なぜ、
「おまえは……タソガレドキの忍か」
そう、問う。
少年の手のなかにある人形には覚えがあった。
柿渋色の装束を着て、包帯を全身に巻いた隻眼の男。
その特徴だけで、それがタソガレドキ城の忍び組頭であるとすぐにわかる。そんな人形を持ち歩いているくらいなのだから、その少年がタソガレドキに関係しているのは明らかだった。それなのに、少年は目を少し丸くして「ほぇ〜」と気の抜けたような声を出したあと、「残念ながら、違います」と微笑みながら言った。
「嘘だ。では、なぜ、その人形を持っている」
「ええ? 知らないんですか? タソガレドキではこういうのを作って出店で売ったりしているそうですよ。僕はタソガレドキの人間じゃないんですけど、たくさん持っててぇ……、人形とか、ギニョールとか、あと、他にもいろいろ……」
「なら、やはりタソガレドキの」
「違います」
人形を胸もとにしまいながら、少年が遮った。
「でも、僕を相手にするのはやめておくことをおすすめします。……もし、僕に何かあったら、タソガレドキ忍軍組頭が黙っていませんから」
ふわり、と甘い匂いが鼻をかすめていく。
「おまえ……、何者だ」
「ふふ、秘密です〜」
少年の人差し指が、
唇の前に立てられた。
そうして、
「では、僕はこれで」
「……!」
しゅんしゅんと音がして、目の前に白煙が広がった。
何かが燃えているようなその匂いが鼻の奥を撫でる。
爆炎か、
そう目を見張った瞬間、目の前にいたはずの少年の姿はもうなくなっていた。
その代わり、指先にぴりぴりと痺れが走りはじめる。
「痺れ薬か」
身体が、重たい。
──こんなものを扱える若い忍がいるなんて、
そんなことを考えているうちに、瞼がどんどん重たくなっていくのを自覚する。
意識が途切れたのは、その直後。
「んふふ」
耳の奥で、そんな笑い声が聞こえて、
暗闇に落ちる。
(鬼の子は鬼、のおはなし)
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