KIKI

鬼さんこちら、

 そのひとに抱かれているとき、ああ、今、この瞬間、目の前のこのひとに命を預けている、と思うことがある。
 寝首をかかれるとはよく言ったもので、自分だって房術を使って相手を出し抜いたことだってあるし、こういうときに一番隙が生まれるということもちゃんとわかっているつもりである。タソガレドキに誘われて、断って、それでもこうして関係が続いていることが不思議だけれど、だからこそ、今ここで、このひとに殺されてしまったら、なんてことが、頭のなかをよぎるのだ。

「……雑渡さん」
「うん?」
 包帯が外されてあらわになった火傷の痕に指を伸ばす。
 中指と人差し指の腹で丁寧にその肌をなぞっていくと、少しだけ湿っているのが感じられて、さすがの雑渡昆奈門でもこういうときに汗をにじませたりするのだなあ、と思ったりもして。
「何?」
 目元から首筋へ、指をゆっくりとおろしたところで、されるがままだったそのひとが焦れたような声を出した。
「いえ……、なんか……こんなことをしてていいのかなあ、って……」
「こんなこと?」
「だって……、雑渡さんは……、きっと、僕のことなんて簡単に殺せちゃいますよね」
「………まあ、そうだね」
「ここで殺されたら、誰にも知られずに、僕は終わりです」
「うーん……、」
「もし、僕が毒を仕込んでいたら、とか……、思いませんか?」
「ああ……」
 そういうこと、
 そう続けたそのひとの手が、僕の指をつかむ。
「う、」
 そうして、褥に縫い付けるように押し付けられたかと思うと、ぐり、とその腰が前に進んだ。
「ッあ!」
「……なぜ、おまえのことを生かしているのだと思う?」
「なぜ、ですか……?」
「いつか、おまえがタソガレドキに来ることを夢に見る」

 息を、
 短く吸う。
 その言葉に、腹のなかにある重みが、急にのしかかってくるような心持ちがした。
 苦しい。
 それに、じりじりと、熱い。

「だから、生かしているんだよ」

 身体の奥に埋められた熱とはうらはらに涼し気なその目に捉えられ、奥まで押し付けられていた腰がじわじわと動き出す。触れる手のひらが、ざらり、と肌を撫ぜた。激しくなることを予感させるような、そんな動きに、自分の身体が強張るのがわかる。

 逃げられない。
 そんな、確信。

「伏木蔵」
「……っは、」
「私は、おまえには殺されない」
「な、んで……、そんなこと、わからないじゃないですか……、」
「だって、おまえは、私を殺せないだろう?」
 言われた瞬間、息苦しさが増した。
 はあ、と喉を上げると、それを制するかのように唇が塞がれる。

 殺し、
 殺されて、
 何度もそれを繰り返す。
「雑渡さん」
 喉の奥でその名を呼ぶと、目の前で、楽しそうに三日月が笑った。

 ──ああ、
 こんなスリルが、ここにあるのなら。
 殺すなんて、勿体ない。
 それだけ。

(……それだけだ、)

 そう言い聞かせながら、その背中に腕をまわして、また、熱を吐く。




(鬼さんこちら、のおはなし)