KIKI

誕生日、分かれ道、おしゃべり

 お誕生日はいつですか、と聞かれたのは、彼がまだ二年生のころだった。
 そのときは無意識に日付けを口にしていたのであろうが、その数ヶ月後まさか本当に祝われるとは思わず、「こなもんさん、ハッピーバースデーです〜」と咲いたばかりの冬咲きの椿がいくつか手のひらに乗せられたときには驚いたものである。
 一年生のころから臆さずに自分の膝に乗ってきたその変わった少年は、学年が上がってもこちらを避けるようになることはなく、昔と変わらず「こなもんさん」「こなもんさん」と彼だけの渾名で呼んで、躊躇うこともなく雑渡の傍にいる。その存在は、タソガレドキ忍軍組頭である雑渡と、彼の住まうその場所とのよすがであり、その縁はこの少年のおかげで今も続いている。雑渡にとって、タソガレドキ領とは不仲である忍術学園との繋がりができたことは思いも寄らない出来事であったといっていい。もちろん、忍らしく利用するだけして捨てるなんてことは雑作もないが、未だにそうはなっていない。

 むしろ、近づいているような、
 縁が深くなっているような、そんな気もしていた。

「あの……、昆奈門さん」
「ん?」
「もう、ひとりで帰れます」
 タソガレドキ城を出てすぐの分かれ道で、こちらを振り返りながら伏木蔵が言った。
「そう?」
「………はい、」

 出会って数年目の、冬。
 まだ少年らしさを残したその表情を、雑渡はじっと見つめた。
 こちらを見上げる目線は昔よりも随分と近づいて、背がのびて育ったその身体はもう片腕だけでは抱えられないくらいになっている。数年前、はじめて彼がここを訪れたときには、十歳の足であんな遠いところまで帰るのは大変だと学園のすぐそばまで抱えて帰ったこともあったというのに、時が経つのは自分が思っているよりもずっと早い。

「こなもんさん」
「……ん?」
「また、小さかったころの僕のことを考えてますね?」
「んふふ、正解」
「やっぱり〜」
「私と一緒に戻れば今日の授業に間に合うけど……、本当にいいの?」
「生憎ですが、自分で帰っても間に合います」
 伏木蔵はわずかに怒ったような表情を浮かべてそう言ったあと、ふ、と視線を下げた。

 それから、雑渡の右手をつかんで、
 ゆっくりと持ち上げる。

「………来年も、お祝いができますように」

 雑渡の手のひらの上には、冬咲きの椿がひとつ。

 それを覆い隠すように小さな両手で包んで、祈るように目をつむった伏木蔵は、雑渡のほうへ視線を戻しながら「ハッピーバースデーです」と微笑んだ。

 よすがは続く。
 目の前の空気が白く濁って、それに隠れるように伏木蔵の姿が消えて、
 特別な日は、ただの一日に戻るのだった。




(誕生日、分かれ道、おしゃべりのおはなし)