元旦、海、日の出
雪が降っている。が、その雪雲は奥から太陽の光が滲んでくるのがわかるくらいには薄く、さっきまで暗かった空がゆっくりと白んできたのが見てとれた。ほどなくして、橙色の大きな陽(ひ)が、じわりじわりと頭を出してきて、「わあ」とその少年が声を上げる。
「見れましたね」
「見れたねぇ」
うれしそうな声にそう返して見下ろせば、「んふふ」と笑った伏木蔵の手が、こちらの手をぎゅうと握り返した。自分の子どもでもおかしくないくらいの歳の差があるというのに、まるで昔からの知り合いのように接してきて、かと思えば恋仲の相手のように甘えてくることすらあるこの珍しい小さな存在が、自分の中でだんだん大きくなってきていることを自覚する。
一年の最初の日に真っ先に顔を合わせたいとねだられるのも、
真夜中に部屋から連れ出すのも、
ぎゅうとしがみついてくるその身体を抱きかかえて海に向かうのも、
「…………初めてだな、こんなこと」
「え?」
「いや、なんでも」
ないよ、と続ける。
その年初めての来迎は、もうすでに眩しいほどであった。ちらちらと降る雪が、それを映すようにして光っている。
「もう帰る?」
「いえ……、まだ大丈夫です」
「起きてきた母君が心配するだろう」
「えぇ? 昆奈門さんでもそんなこと心配するんですね、意外です」
「私を鬼だとでも思っているの?」
「違うんですか?」
「私だって人の子だよ」
「ふふ、そうでした……、でも、こなもんさん、」
「ん?」
「これからは、どこにでも連れ出してもらって大丈夫です」
そう言って、ひょい、と雑渡の目の前に立つ。
「僕はもう大人ですよ、昆奈門さん」
光を背にしたその子から放たれた言葉に、雑渡は思わず口元を緩めた。
握られた手はそのまま、だんだんと温かく熱を持っていく。それはさながら海の向こうの光のようで、眩しくて、尊い。
じゃあ連れて帰ってしまおうか、と言いかけて、やめた。
その代わりに、冷たい海風から守るようにして引き寄せた身体を覆ってやれば、くふくふといつものように笑う。
腕のなかの光を隠しておけるのは、あと少しの間。
雪はやみ、薄くかかっていた雲はもうない。
そこにあるのは、静かな波の音だけである。
(元旦、海、日の出、のおはなし)
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